<div class="t_h" >151: <span style="color: green; font-weight: bold;">あなたのうしろに名無しさんが・・・</span> <span style="color: gray;"> 03/01/18 12:34</span></div>
<div class="t_b" > 祖父の七回忌だったと思う。 <br /> 実家は海に近い田舎町。近くには漁港があり、 <br /> 潮の流れが速くて海水浴はできなかったが、 <br /> 景色のいい砂浜もあった。 <br /> さて、法事は朝から坊さんが来て始まり、午後は親戚一同で <br /> 酒を飲みながらの食事になった。 <br /> 大人たちは盛り上がっていたが、僕はすぐに退屈した。 <br /> それで、年の近いいとこと2人、海の方へ散歩することにした。 <br /> 母親には夕方家に帰るから、遅くならないうちに戻るよう言われた。 <br /> </div><br />
<div class="t_h" >153: <span style="color: green; font-weight: bold;">あなたのうしろに名無しさんが・・・</span> <span style="color: gray;"> 03/01/18 12:35</span></div>
<div class="t_b" > 僕らは砂浜をぶらぶら歩くのにすぐ退屈して、漂着した木片とボールを <br /> 使ってバッティングをやり出した。 <br /> 小学六年生のいとこが海を背にしてボールを投げ、僕がそれを打った。 <br /> ボールは波が押し返すのだが、当たりがよくて沖に流されたりもした。 <br /> 砂浜に落ちているボールにも限りがあって、それを探すのも一苦労だった。 <br /> 2人してボールになりそうなものを探していると、いとこが僕のことを呼んだ。 <br /> 変なもの見つけたと言う。 <br /> <br /> それは女性物のカツラだった。 <br /> <br /> いとこはそれを手にとり、笑いながら振り回したり、足で蹴ったりした。 <br /> やめろよ、気持ち悪いから。それよりボール探そうぜ。 <br /> 僕は相手にしなかった。 <br /> すると従兄弟はふざけて、そのカツラをかぶってみせた。 <br /> ちょっと気味が悪かった。 <br /> その幼い顔つきが、カツラのせいでなんだか急に大人びて見えた。 <br /> </div><br />
<div class="t_h" >154: <span style="color: green; font-weight: bold;">あなたのうしろに名無しさんが・・・</span> <span style="color: gray;"> 03/01/18 12:36</span></div>
<div class="t_b" > いい加減にしろ。もう帰るよ。 <br /> 海は夕日でオレンジ色に照り返していた。 <br /> 波の音が大きくなったような気がした。 <br /> この時の胸騒ぎが、後に的中することになった。 <br /> <br /> 祖母の家に戻ると、何人かの親戚はすでに帰っていた。 <br /> うちも母親が車を運転するので、その日のうちに帰る予定だった。 <br /> 従兄弟の家族は一泊するとのこと。 <br /> 僕は母親にせかされ、仏壇に手を合わせた。 <br /> なぜか従兄弟も後についた。 <br /> それからちょっとして、僕は先に車に乗り込んだ。 <br /> カーラジオを聞いていると、母親がやってきた。 <br /> あんた、○○くんと何か食べたの? <br /> さっき突然気分が悪くなって、吐いちゃったのよ。 <br /> </div><br />
<div class="t_h" >155: <span style="color: green; font-weight: bold;">あなたのうしろに名無しさんが・・・</span> <span style="color: gray;"> 03/01/18 12:36</span></div>
<div class="t_b" > そこから大変だった。 <br /> 母親とおばさん夫婦は車で従兄弟を病院に連れて行った。 <br /> 僕は何があったか聞かれたのだが、見当もつかない。 <br /> その様子を傍で見ていた近所のおばあさんが、何事か祖母と話している。 <br /> 不安が募っていた。従兄弟は真っ青になり、ガタガタと震えていたし、 <br /> 大人たちはアレルギーショックについて深刻そうに話していた。 <br /> その時だった。 <br /> <br /> 仏壇の前の花瓶が前触れも無く倒れた。 <br /> その場に居合わせた全員が驚いた。 <br /> 「実は、・・・・・」 <br /> 僕は喉まで出かかっていた言葉を口にした。 <br /> 砂浜に落ちていたカツラのことだ。 <br /> 大人の男性は眉をしかめたが、近所のおばあさんや他の女性は熱心に聞いていた。 <br /> そのカツラを今すぐお寺に持って行った方がいいと言ったのは、 <br /> そのおばあさんだった。 <br /> </div><br />
<div class="t_h" >156: <span style="color: green; font-weight: bold;">あなたのうしろに名無しさんが・・・</span> <span style="color: gray;"> 03/01/18 12:39</span></div>
<div class="t_b" > おばあさんが電話すると、ちょっとヤンキーぽい若者二人がやって来た。 <br /> 高校生の孫と彼の友人だった。 <br /> 事情を聞くと、砂浜まで一緒に行ってくれるとのこと。 <br /> 日は暮れてすでに暗かった。 <br /> 原付とバイクに乗って、僕らは砂浜へ向かった。 <br /> 港の灯台が微かに見えるだけで、辺りは真っ暗だった。 <br /> バイクを止めて松林を通り抜ける途中、その高校生達は話し始めた。 <br /> どうやら一年近く前、浜に死体が流れ着いたらしい。 <br /> 身元不明、多分国籍も不明、救命具を付けた上半身だけだったという。 <br /> 下半身はフカや魚に食べられ、顔の肉もほとんどなかったらしい。 <br /> 「あれは男だから、そのカツラは関係ないだろう」としゃべっていた。 <br /> 僕は激しく後悔した。逃げ帰りたかった。 <br /> 懐中電燈を持つ手は震え、集中してカツラを探す余裕はなかった。 <br /> </div><br />
<div class="t_h" >157: <span style="color: green; font-weight: bold;">あなたのうしろに名無しさんが・・・</span> <span style="color: gray;"> 03/01/18 12:40</span></div>
<div class="t_b" > 「ここらへんだと思う」 <br /> 本当は暗くて全然分からなかった。 <br /> 二人は探索に熱中して、あまり怖がっていないみたいだった。 <br /> 僕は彼らについて歩きながら、背後が気になってしょうがない。 <br /> 「おい、これじゃねえのか?」 <br /> 友人の方がカツラを見つけた。 <br /> 発泡スチロールやビニールなどの合間に、それは転がっていた。 <br /> まるで干からびた海藻のように見えた。 <br /> 安堵して早く戻ろうと急ぎ足になった時だ。 <br /> 突然、海の方から悲鳴のようなものが聞こえた。 <br /> 三人驚いて振り返ると、月明かりの下、波打ち際に真っ暗な人影があった。 <br /> 二百メートルくらい先に立っていて、手招いているように見える。 <br /> 僕らは声を上げて走り出した。 <br /> バイクを止めた道路わきまで来て、おばあさんの孫が言った。 <br /> 「やばかったな。ありゃ幽霊だったよ」 <br /> 片方の高校生が腕をさすりながら答える。 <br /> 「鳥肌立ってる。・・・・近寄ったら海に引きずり込まれてたな」 <br /> <br /> </div><br />
<div class="t_h" >158: <span style="color: green; font-weight: bold;">あなたのうしろに名無しさんが・・・</span> <span style="color: gray;"> 03/01/18 12:41</span></div>
<div class="t_b" > おばあさんの指示に従い、僕らはカツラをあるお寺に持っていった。 <br /> そみには親戚のおばさん、祖母、あのおばあさんは待機していた。 <br /> すぐに住職が仏壇にカツラを供え、読経を始めた。 <br /> 同じ頃、従兄弟は緊急治療室にいて、チアノーゼ?みたいな症状を起こし、 <br /> 体温が危険な状態まで落ちていたそうだ。 <br /> <br /> 結局、真夜中になって従兄弟の病状は回復した。 <br /> 後日、祖母から伝え聞いた住職の話では、浮かばれない無縁仏の霊が、 <br /> 一族の賑やかな法事に嫉妬したのだろう、ということだった。 <br /> <br /> <br /> <br /> おわり <br /> <br /> </div><br />
海の方から悲鳴のようなものが聞こえた
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