落としたらしく、はっきりと判別はできません。
闇に目が慣れるまでその場を動かず、というか恐怖で動けず時は過ぎていきました。
しばらくすると闇に目が慣れ、ぼんやりと周囲が月明かりで明るくなっていき、
それと同時に霧が晴れていきました。
周りが見えてくるにつれ、周りの異変にも否が応にも気付きました。
前後50cmくらいの間隔で何かいる。大人くらいの背丈の何か。
人の様ではあるが人ではない様に感じました。
霧が晴れるにつれ、周囲の状況が把握できるようになりましたが
その異常さは理解ができませんでした。
何かの気配があったのは前後だけではありませんでした。
その前にも後ろにも同じようなものが並んでいる。
まるでブランドバッグの限定品に行列している人々のようでした。
怖かったがもう一度確認しようと恐る恐る後ろを振り向いた時、
心臓が凍りつくくらいにドキゾクッとしました。
その人のような物の全ての顔の部分に狐の面がついていました。
能面の狐の目をさらに吊り上げたような感じでした。
そしてその狐面はグッと体を押してきました。
しかし体には何も触れておらず空気自体を押してきているような感じでした。
足元は細くて不安定なコンクリートで、否応なしに前に進まされていると、
前にいた何体もの狐面が一つ一つ姿を消していった。
自分の眼前にいた狐面が姿を消した瞬間、何が起こっているか理解できました。
俺は踏み止まろうと抵抗しましたが、後ろからの圧力には勝てずに、
自分も落ちていきました。土のスライダーを滑り落ちているような感じでした。
5秒ほどで底に着き、そこで見たものは落ちる前と同じ風景。
左手に田んぼ、右手に畦道の壁。
後ろの狐面もすぐに滑り降りてきて、再び妙な行列は始まりました。
しばらく進むとまた穴があり、その底にはまた同じ風景。
何度も何度も同じことを繰り返し、どれくらいの時間がたったのかわかりませんでした。
しかし、頭がだんだんと冷静になっていったのか、
滑り落ちる穴が深くなっていることに気がつきました。
最初5秒位滑落していたのが10秒位になっている。
さらに何度か歩いては落ち歩いては落ちを何度も繰り返すと、
今度は穴が底なしになりました。
かなりの時間滑り落ちていた感じがし、このまま永遠に落ち続けるかのようでした。
その時、何か低い音が轟いた。猛獣が吠えた様なおなかに響く威圧感がありました。
その音を聞いた途端目の前がぼやけ、かすみ、意識が遠ざかっていくのを感じました。
意識が戻ったとき、目の前には母の顔がありました。
帰ろうと捜しに来たところ、神社の狛犬の像に寄りかかるように倒れていたらしい。
ケガとかは無かったので大騒ぎにはならず、そのまま帰ったのですが、
翌日、母にこの出来事を話したところ、不思議な顔をされました。
ずっと同じところをうろうろしていたらしい。
蛙釣りが好きなのを知っていたため、別に不審にも思っていなかったと言っていました。
もちろん霧のことも言ったのですが霧など出ておらず、
満月だったため非常に明るかったらしい。
しかし、その日着ていた服の背中からお尻にかけて
土まみれでひどく汚れていたとは言っていました。
今から思うと最期の咆哮の主は発見時に寄りかかっていた狛犬で、
狐に憑かれようとしていた?俺を守ってくれたのでしょうか。
ちなみにその神社が何を祀っていたのかはわかりません。
というかその神社がどこにあったのか今となってはわからないのです。
あれ以降自分に備わっていた抜群の方向感覚が弱くなり、
また怖くて二度と近寄れなかったこともあり、道がわからなくなりました。
というよりはたどり着けなくなったといったほうが正しいような気がします。
母に聞こうにも最近鬼籍に入ってしまい、不可能になりました。
父はその知人の家は知らないそうです。
ちなみに当時自分には霊感などまったく無かったのですが、
これより10年位後ほんの少しだけ目覚めたのか、姿はほとんど見えないが
気配を感じたり金縛りにあったりちょっとした経験をいくつもしました。
無関係だと思いますが…