短い話ですが。
大学に通うため、上京してすぐのことです。
高田馬場から徒歩15分ほどにある家賃3万円の
風呂なしアパートに下宿を始めました。6畳で
トイレ、キッチン付きだったので、その当時
としては割りと安かったと思います。
家具も家電製品もなく、布団とダンボール詰め
の衣類だけの何にもない部屋で最初の一月は
自炊をして我慢していました。
入居翌日、ひまをもてあまし部屋をうろうろ
歩き回っていると、足裏にチクリと痛みを
感じました。木の棘か畳のささくれでもある
のかと確認してみましたが、特に何もありません。
数日後、部屋の中を移動している時、また
足裏にチクリと痛みがありました。今度は
正確な場所が特定できたので、畳に顔を近づけ
てじっくり調べましたが、残念ながら何も
見つけられませんでした。
その後も何度もそのチクリにやられました。
部屋の中央から少しずれた位置に、そのポイント
はあり、いつもは気をつけているのですが、
たまに踏んでしまうのです。
ある日、慣れない大学生活にストレスが溜まり、
いらいらしている時に、またチクリポイントを
踏んづけてしまいました。やり場のない怒りが
沸き起こり、足を大きく上げると、そこをドスン
と思いっきり踏みつけました。
すると、踏みつけた足に激痛が走り、足の甲が
みるみるうちに血に溢れました。痛みが凄くて
しばらくは動けませんでした。ようやく足を
あげると、どうやら足の裏から甲まで貫いて
何かが刺さったようです。ただ、肝心の刺さった
ものが見当たりません。足の中に入り込んで
いるようでもありません。
片足で跳ねながら、なんとか近所の病院まで
行って治療してもらいました。やはり何か
鋭利なものが足裏から足の甲まで貫通して
いました。医者に何度も怪我の理由を聞かれ
ましたが、私も答えようがなく、相当不審
がられました。
その後、そのチクリポイントには「トラノオ」
という観葉植物を置いて、絶対に踏まないよう
に気をつけていました。遊びに来た友人は
みな邪魔がっていましたが。
2年後、契約の更新時期に引っ越すことにした
のですが、ふと気になって畳をひっくり返し
て例のポイントを確かめてみました。
畳の下は板張りになっているのですが、例の
位置に掘り込みがしてあって、出刃包丁を
4分の1くらいのサイズにした、ミニチュア
包丁がぴったりとはめ込んでありました。
サイズは小さいですが、造りは丁寧なもの
で高級なものに見えます。
その刃は錆びたように赤茶けていて、
生臭い臭いがしたのでした。